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      太もも切り第一号〜片瀬に2件      
昭和29(1954)年8月2日・神奈川新聞
1日ひるごろ片瀬海岸東浜海水浴場で浮輪で遊泳中の東京都北区十条 西山文子さん[仮名](19)は、カミソリのようなもので右太ももを切られた。傷は長さ10センチ、深さ1センチだった。ところが同2時半ごろまたも片瀬東浜3963先海岸で遊泳中の横須賀市船越 徳田小夜子さん[仮名](19)が左下腹部をカミソリようもので長さ5センチ深さ0.5センチの傷を受けたと片瀬臨時派出所に届出た。
同所は昨夏18名の太もも切りが発生したところなので、藤沢署は水着姿の警官を海岸に配置して警戒している。
●ニタリ笑う悪魔●
この企画のネタをさがすために図書館にこもって膨大な新聞を繰っていると、昭和20年代の新聞って本当におもしろいことに気付く。
事件そのものもおもしろいが、その表現が
異様にオーバーでユーモアたっぷりなのだ。東京スポーツなんてこれに比べれば子供みたいなもの。
それに誤植も多い。”
カミソリようもの”は私のタイプミスではない。みんなびっくりして慌てているようで、なんだか笑える。
ところが”のあたりもおもしろい。一人目の西山さんが犠牲になったところでもう出ないだろうと思っていたんだけど、なんとまあ、出ちゃったんすよ、みたいなニュアンスも読み取れていい。今なら確実に”さらに”なんていう接続詞で記事を続けるところだろう。
しかしこの事件、そう笑ってはいられない。
前年に18名の女性が犠牲になったこの事件、今年こそと藤沢署は水着姿の警官まで配置して厳戒態勢を取ったが、その結果はどうなったんだろう。
9月4日の神奈川新聞にはその経過が載っていた。
ニタリ笑う悪魔〜片瀬海岸のモモ切り魔、傷はいずれも下半身』というタイトルの記事には、その犯人が”妙齢の婦人のふくらはぎやおしりを切りまくった、世に言うモモ切り魔”がついにつかまらなかったとある。
ニタリ笑って妙齢の婦人に近づき、ふくらはぎやおしりを”切りまくった"男・・・。
その男の年齢や特徴が一切書いてないので想像がつかないが、かなり怖い。何せ
泳いでいる女性にニヤニヤしながらプカプカと近づいてくるんだから、ある意味サメよりやっかいだ。
夏の片瀬海岸はみんなニタリ笑う男に警戒していたに違いない。そしてこれだけ有名になったのでついに
モモ切り魔という名がついてしまった。
包丁男・煙突男・爆弾男・・・・。新聞が一方的につける名前はたくさんあるが、
モモ切り魔なんて、後にも先にもこいつだけだろう。
「ねえ、モモ切り魔に気をつけなさいよ」「お母さん、わかってるって。」なんて会話が夏にされたであろうこの昭和29年、マリリン・モンローが来日し、映画「七人の侍」 が人気を博し、ビキニ環礁の水爆実験で第五福竜丸が死の灰を浴び、国鉄青函連絡船「洞爺丸」が沈没して死者・行方不明者1155名の大惨事が起き、そして街頭テレビではシャープ兄弟対力道山・木村組のプロレスにみんな酔いしれ、吉田茂はついに首相の座を降りた・・・。
今、この世界のどこかにモモ切り魔が生きているとしたら、その男の興味は何に移っているんだろう。

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2000.8.5