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      鷹取山の怪盗捕る〜70件の飯くいドロ      
昭和30(1955)年3月31日・神奈川新聞
昨夏来逗子鷹取山を中心に荒らしまわっていた”飯くいドロ”葉山町下山口生まれ住所不定前科4犯 沼山直吉(47)[仮名]を指名手配中のところ、このほど横浜市の某簡易宿泊所で逮捕した。
調べでは昨年7月8日府中刑務所を出所以来、鷹取山山中に根城をつくり、懐中電灯、手袋、ドライバーなど7つ道具をかくして、情婦を横浜市金沢区六浦に住まわせ深夜に飯を盗みくうというひとをくったかせぎを続けてきたもの。
出所直後の8月10日深夜、桜山・会社員 岡田園吉さん(51)[仮名]方台所から忍び込み、飯をくおうとしたところを英語勉強中の長男にみつけられ格闘のすえ逃走、また10月下旬には同市沼間・ミシン販売業 三村貫一さん(38)[仮名]方で就寝中に忍込み、台所で飯をくい、食器をきれいに洗った末、タンスの抽出しから現金28000円を失敬逃走、このほか自供しただけで逗子市内50件、田浦署管内20件の飯くいドロをやっており、取調べの係官もあきれている
犯行の際には手袋をはめ指紋を残さぬといった慎重さで張り込みの警官に見つかると縁の下に息を殺してひそみ、警官隊が引き上げてからゆうゆうとまたひと仕事して引き上げるという不敵ぶり。
鷹取山の怪盗捕る〜70件の飯くいドロ
●鷹取山サバイバル●
それにしてもこの時代の新聞記事はその文章が面白い。3面記事はまさにかわら版感覚で、”飯くい”と”ひとをくったかせぎ”をかけるなどにくい演出が目立つ。
”情婦”っていう言葉も最近聞かないが、早い話、『愛人』のことである。それに、盗みに入られた岡田さんの長男は”
英語勉強中”と、わざわざ『英語』をつけたところに時代を感じる。これが”数学”とか”国語”だったら記事にならないところだろうが、この時代、英語を勉強することに一定のステータスが存在したということだろう。岡田さんも警察の取り調べに『いえね、うちのせがれが英語を勉強してたときにね・・・』なんて自慢しながら話す光景が目に浮かぶ。
そして記事の最後は”
不敵ぶり”・・・。マニア的にはもうちょっと続きを読んでみたいところだが、そこで中途半端に終わるところもまたいい。

さて、”
飯くいドロ”が出るような戦後の混乱期だった昭和30年。
この男、沼山は府中刑務所を出てから
鷹取山にベースを構え、周辺に出張するという妙な動きを展開する。
いったいこの男はどこに寝泊りしたのか?という単純な疑問がわいてくるが、わざわざ山の中に根城を作っている。寝るのは愛人の家、そして道具は鷹取山、これは、やはり
愛人に犯罪者であることをわかられたくなかったから・・・という推測は多分、当たりだろう。
食べるものに困って夜中に盗みに帰り、ちょっと現金を”
失敬”、そのお礼なのか食器をきれいに洗うところも泣かせる。
いいヤツなのか悪いヤツなのかぜんぜんわからないこの男だが、さすがは前科4犯。警察の動きを巧みにかわす術も心得ている。
いまどき縁の下になんてもぐれないが、さすがはプロ、彼の得意パターンだったんだろう。それに今も昔も”
手袋をはめ指紋を残さぬといった慎重さ”なんて当たり前だが、さもすごいことのように記してあるのもプロであることの裏づけだ。
47歳の犯人、沼山。
当時の記事のわきにある写真を見ると
禿げ上がっていてもっともっと年上に見える
これからの人生がまた泥棒と刑務所だったらあまりにも悲しいこの男、一人残された愛人はそれでも待っているのだろうか?

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2001.1.29